2026年1月3日土曜日

ゴルディアスの結び目と、世界経済という複雑さ

「ゴルディアスの結び目」という言葉がある。

 

古代、誰にも解けないほど複雑に結ばれた結び目があり、それを解いた者がアジアを支配すると言われていた。多くの人が知恵を尽くしたが、誰も解けなかった。
そこに現れたアレクサンドロス大王は、結び目をしばらく眺めたあと、剣で一刀両断したという。

解けないなら、断ち切ればいい。

この逸話は、現代の世界経済を眺めていると、妙に現実味を帯びてくる。

今の世界経済は、あまりにも複雑だ。
金利政策一つとっても、米国、欧州、新興国で状況はまったく異なる。地政学リスク、資源価格、為替、インフレ、人口動態。どれか一つを理解したと思った瞬間に、別の要因が絡み合ってくる。

投資家は、その複雑さを「正しく解こう」とする。
景気後退はいつ来るのか。
利下げは本当に始まるのか。
次に市場を動かすのは何か。

だが、情報を集めれば集めるほど、判断は難しくなる。世界経済は、まさに現代版のゴルディアスの結び目だ。

世界経済がこれほど複雑に見えるのは、システムとして動いているからだ。
金利、為替、資源、政治、企業活動は互いに影響し合い、単体で切り離して理解することができない。これはまさにシステム思考が扱う世界であり、部分最適では全体像にたどり着けない。

この結び目を「正しく解こう」とする限り、個人投資家は情報の渦に巻き込まれ続ける。
そこで必要になるのが、ブレークスルー思考だ。
相場を予測するという前提そのものを疑い、発想を切り替える。解けないなら、断ち切る。長期投資や永久保有は、そのための一つの方法である。

さらに言えば、これはデザイン思考にも近い。
世界経済の正解を求めるのではなく、自分が長く続けられる投資の形を設計する。判断回数を減らし、感情の消耗を抑え、時間を味方につける。投資を「当てる行為」ではなく、「付き合い方」として捉え直す。

私が長期投資、そして株式の永久保有を信念にしているのは、この結び目を完全に解くことを最初から目標にしていないからだ。

世界経済を完璧に理解することはできない。
短期の株価変動を、複雑な要因すべてから説明することもできない。
それなら、考え方そのものをシンプルにしてしまえばいい。

個々の企業に目を向ける。
その企業が、10年後、20年後も価値を生み出せそうかを考える。
世界経済の波は受けるが、それでも生き残る力があるかを見る。

頻繁な売買をしない。
日々のニュースに過剰に反応しない。
時間を最大の味方にする。

これは、複雑な世界経済という結び目を、「理解し尽くそう」とする代わりに、一本の軸で断ち切る行為に近い。

もちろん、永久保有は思考停止ではない。
前提が崩れれば見直す必要はあるし、企業を疑い続ける姿勢も欠かせない。
ただ、すべてを把握しようとして身動きが取れなくなるより、自分なりの剣を持つ方が、投資を続けやすい。

世界経済は、これからも複雑さを増していくだろう。
その中で個人投資家ができることは限られている。

だからこそ、解けない結び目に固執しすぎない。
ときには思い切って断ち切り、静かに構える。

ゴルディアスの結び目は、遠い古代の話ではない。
それは今日も、市場のどこかで、私たちの前にぶら下がっている。

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