2026年10月3日土曜日

太陽と鳥 エスビー食品(2805)

 

エスビー食品――「美味求真」を貫く103年企業

 

カレー粉、コショー、七味唐辛子、わさび、チューブ入りの香辛料。

私たちの台所を見渡してみると、エスビー食品の商品が一つくらい置いてあるのではないでしょうか。

エスビー食品の創業は1923年。

2026年で103年になります。

創業者の山崎峯次郎が日本で初めて国産カレー粉の製造に成功し、浅草七軒町に「日賀志屋」を創業したことが、現在のエスビー食品の出発点です。

そして、この会社を調べていて面白いと思ったのが、創業以来変わらないという企業理念、

「美味求真」

です。

「美味しいものを追求する」。

言葉にしてしまえばシンプルですが、100年以上続く企業の原点にこの言葉があると考えると、とても興味深い。

今回は、「美味求真」という理念を入り口に、エスビー食品という会社を見てみたいと思います。

カレーとの出会い

エスビー食品の創業者、山崎峯次郎は1903年生まれ。

17歳のときに上京し、ソース屋に勤めていました。

そこでカレーライスと出会います。

そして、その味に衝撃を受け、

「自分でカレー粉を作ってみたい」

という思いを抱くようになりました。

当時、日本では外国製のカレー粉が中心でした。

山崎峯次郎は、試行錯誤を繰り返しながらカレー粉の研究を続けます。

そして1923年、日本で初めて純国産のカレー粉の製造に成功しました。

同じ1923年4月5日、浅草七軒町に「日賀志屋」を創業。

これが現在のエスビー食品につながっています。

つまりエスビー食品の歴史は、

「カレーのおいしさを、自分の手で作ってみたい」

という一人の青年の探究心から始まったのです。

「美味求真」という創業理念

山崎峯次郎が大切にした考え方が、

「美味求真」

です。

エスビー食品は現在も、

お客様に喜んでいただくために、ただひたすら真っすぐに“本物のおいしさ”を追い求めます。

と説明しています。

私は、この理念が非常に面白いと思います。

「売上を増やす」とも、

「シェアを拡大する」とも、

「利益を最大化する」とも書いていません。

まず、

「本物のおいしさを追求する」

ことがある。

そして、そのために研究する。

工夫する。

新しい商品を作る。

お客様に喜んでもらう。

その結果として会社が成長していく。

100年以上前に生まれた理念が、現在の商品開発にもつながっているのです。

「日賀志屋」という名前にも創業者の思いがある

創業時の会社名が「日賀志屋」だったことも面白いところです。

これは山崎峯次郎の生活信念、

「一日一日を賀び、志をたてて商売にいそしみ励む」

という言葉を屋号に込めたものだそうです。

一日一日を大切にしながら、志を持って商売に励む。

こちらも、いかにも長寿企業らしい考え方です。

S&Bの名前はどこから来たのか

現在の「S&B」という名前にも由来があります。

1930年、家庭用カレー粉として「ヒドリ印カレー粉」を発売。

その商標には「太陽」と「鳥」が描かれました。

会社の運勢が日が昇るように発展し、商品が鳥のように自由に全国へ広がっていくことへの願いが込められていました。

そして1931年、この「ヒドリ印」に、

SUN=太陽
BIRD=鳥

の頭文字である「S&B」を併記しました。

現在では当たり前のように見える「S&B」という名前にも、創業期の願いが込められているわけです。

カレーだけの会社ではない

エスビー食品というと、まずカレーを思い浮かべる人が多いでしょう。

もちろんカレーは重要な事業です。

しかし、現在のエスビー食品はそれだけではありません。

スパイスやハーブ、即席カレー、香辛調味料、レトルトカレー、インスタント食品など、非常に幅広い商品を展開しています。

2026年3月期の商品区分別売上構成を見ると、

  • スパイス&ハーブ:約22%
  • 即席:約28%
  • 香辛調味料:約30%
  • インスタント食品その他:約20%

となっています。

つまり、

「カレー粉の会社」から「スパイスとハーブを核とした食品会社」へ進化してきた

と考えたほうがよいでしょう。

現在の商品数は約3,000品目。

和食、洋食、中華など幅広い料理をカバーしています。

「美味求真」は現在も生きている

エスビー食品の現在の企業理念は、

「食卓に、自然としあわせを。」

です。

その中で、

「常に研究を怠らず、創意工夫をこらして高い品質と新たな価値を創出する」

「常にお客様の視点で考え、心から満足していただける製品を追求する」

「常に自然に感謝し、食卓から幸せな生活と豊かな社会づくりに貢献する」

という考え方を掲げています。

一方で、創業理念として「美味求真」は今も残っています。

ここがエスビー食品の面白いところです。

企業理念は時代に合わせて広がっていますが、その根っこには、

「本物のおいしさを追求する」

という創業者の考えが残っている。

長寿企業を見るとき、私はこういう部分を大切にしたいと思っています。

103年間、変わったものと変わらないもの

1923年。

山崎峯次郎は、外国製品が中心だったカレー粉を日本で作りました。

現在。

エスビー食品は日本国内だけでなく海外にも事業を展開しています。

技術も、商品も、販売方法も大きく変わりました。

それでも、

スパイスとハーブを通じて食を豊かにする

という部分は変わっていません。

エスビー食品自身も、現在は「スパイス&ハーブの価値で食の世界を変える」をテーマとする「経営戦略2033」を進めています。

創業から103年。

会社の姿は変わっても、創業者の「美味求真」はまだ会社の中に生きています。

現在のエスビー食品

2026年3月期のエスビー食品は、売上高1,290億22百万円、営業利益103億18百万円、経常利益107億26百万円、親会社株主に帰属する当期純利益84億9百万円となりました。

売上高は前期比4.5%増、営業利益は9.3%増、当期純利益は11.2%増です。

直近3年間の財務


2024年3月期2025年3月期2026年3月期
売上高1,264億43百万円1,235億20百万円1,290億22百万円
営業利益77億78百万円94億42百万円103億18百万円
ROA4.79%5.52%5.37%
自己資本比率51.8%58.5%60.2%
1株配当33円40円50円

ROAは2026年3月期で5%台。

自己資本比率も60.2%まで上昇しています。

利益の伸びだけでなく、財務基盤も比較的しっかりしている会社だと見ることができます。

10年間で利益はどれだけ成長したか

長期投資では、目先の業績だけでなく、10年程度の長い期間で利益がどう変化したかを見ることも重要です。

エスビー食品の親会社株主に帰属する当期純利益は、

2016年3月期:約16.7億円
2026年3月期:約84.1億円

となっています。

この10年間の年平均成長率(CAGR)を計算すると、**約17.5%**になります。

ただし、ここは少し注意が必要です。

2016年3月期は利益水準が低く、その後大きく利益が伸びたため、CAGRはかなり高く出ています。

したがって、

「今後も毎年17.5%成長する」

という意味ではありません。

むしろ重要なのは、原材料価格の上昇などによる厳しい局面を経験しながらも、長期的には収益力を大きく高めてきたという点でしょう。

配当も増えている

配当も増加しています。

2024年3月期 33円
2025年3月期 40円
2026年3月期 50円
2027年3月期予想 60円

です。

2025年4月1日を効力発生日として1株を2株に分割しているため、過去の配当額と単純比較するときには注意が必要ですが、分割後ベースでも増配傾向が確認できます。

会社は中長期的に総還元性向35%を目標としており、安定配当と増配による株主還元強化を掲げています。

エスビー食品の5つのリスク

長期保有を考えるなら、リスクも確認しておきましょう。

① 原材料価格の上昇

スパイスやハーブをはじめ、食品原材料価格の上昇は利益を圧迫します。

会社自身も原材料価格の上昇を経営環境上の課題として挙げています。

② 為替リスク

海外から原材料を調達することに加え、海外事業も拡大しています。

為替の変動がコストや海外事業の収益に影響する可能性があります。

③ 食品市場での競争

カレー、調味料、加工食品などは競争の激しい市場です。

ブランド力を維持するためには、継続的な商品開発や広告投資が必要になります。

④ 海外事業のリスク

エスビー食品は海外事業を成長分野として位置付けています。

海外市場の拡大には成長余地がある一方、各国の市場環境や規制、為替など、日本国内とは異なるリスクもあります。

⑤ 原材料・自然環境への依存

スパイスやハーブは農産物です。

気候変動や異常気象、産地の状況などによって、調達環境が変化する可能性があります。

これは「地の恵み」を扱う企業だからこそ避けられないリスクでしょう。

長期投資先としてのエスビー食品

では、エスビー食品は10年を超えて保有する会社としてどうでしょうか。

非常に興味深い会社だと思います。

最大の魅力は、

「美味求真」という創業理念と、現在の事業がきれいにつながっていること。

ではないでしょうか。

1923年。

山崎峯次郎は、日本初の国産カレー粉を作りました。

100年以上後の現在。

エスビー食品は、カレーだけではなく、スパイス、ハーブ、調味料、レトルト食品など約3,000品目の商品を展開しています。

しかし、根本にあるのは、

「本物のおいしさを追求する」

という考え方です。

これは、流行によって簡単に消えてしまうような事業理念ではありません。

食べることはなくなりません。

そして、「もっとおいしいものを食べたい」という人間の欲求も、おそらくなくならないでしょう。

長期投資の評価

★★★★☆

103年という長い歴史。

食品という生活に密着した事業。

スパイス・ハーブという専門性。

強いブランド。

安定した財務基盤。

そして利益と配当の成長。

長期投資の対象として、魅力的な要素はかなり多いと思います。

一方で、現在の株価は安くありません。

また、配当利回りも高配当株と呼べる水準ではありません。

そのため、会社そのものについては高く評価できますが、現在の株価まで含めると満点評価にはしにくいと考えました。

10年越えの長期投資に向けて今日の株価は買いか?

2026年9月18日の終値は7,930円。

予想配当は60円。

予想PERは約23.7倍、PBRは約1.94倍、予想配当利回りは約0.76%です。

この数字を見る限り、現在の株価は決して割安とは言いにくいでしょう。

特に配当利回りは0.76%。

「配当をもらいながら割安株を長期保有する」という観点では、もう少し株価が下がったところを待ちたいところです。

一方で、エスビー食品には100年以上続くブランドがあります。

「赤缶カレー粉」をはじめ、カレー、スパイス、ハーブという非常に強いカテゴリーを持っています。

さらに、2026年3月期の営業利益は103億円まで増加し、2027年3月期も営業利益107億円を計画しています。

したがって、

会社は長期保有候補として面白い。
ただし、現在の株価では「積極的に買いたい」というより、価格を見ながらじっくり待ちたい。

というのが私の考えです。

永久投資を前提にするなら、良い会社を見つけたからといって、必ず今日買う必要はありません。

良い会社だからこそ、納得できる価格になるまで待つ。

そんな付き合い方もできる会社だと思います。

※本記事は特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。本記事の内容によって生じたいかなる損失についても、筆者および当ブログは責任を負いません。

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