ニッスイ――一隻のトロール船から始まり、食を支え続ける115年企業
1911年創業。
2026年で115年。
これだけ長い歴史を持ちながら、現在も東証プライム市場に上場し、成長を続けている会社があります。
それがニッスイです。
現在のニッスイを見れば、水産会社というよりも、食品会社という印象のほうが強いかもしれません。
しかし、その出発点は一隻のトロール漁船でした。
そして、この会社を調べていて私が特に興味を持ったのが、創業時から受け継がれている「水産物の水道」という考え方です。
一隻の漁船から始まった
ニッスイの創業者は田村市郎です。
1911年、田村市郎は水産業の将来性に目を向け、当時最先端だったトロール漁業を日本に導入しました。
イギリスでトロール漁業を学んだ国司浩助を再びイギリスへ派遣し、トロール漁船の建造を進めます。
そして1911年5月31日、下関を拠点として「田村汽船漁業部」を創業しました。
これが現在のニッスイの出発点です。
ニッスイ自身も「一隻の漁船でスタートした」と説明しています。
たった一隻の漁船から始まった会社が、115年後には売上高9,000億円を超える企業になっている。
こう考えると、長寿企業の歴史というのは実に面白いものです。
「水産物の水道」という理念
ニッスイの創業理念には、こんな言葉があります。
「水の水道におけるは、水産物の生産配給における理想である。」
かなり独特な表現です。
水道とは、水源から必要な場所へ水を届ける仕組みです。
では、水産物の水道とは何なのか。
ニッスイの資料には、その考え方がさらに詳しく記されています。
世界中の海から海洋資源を求め、できるだけ新鮮な状態で蓄え、世界各地の市場へ、いわば「水道の鉄管を引く」ように供給する。
そして、水産物の配給上の無駄をなくし、できるだけ安価に届ける。
これが創業時の考え方でした。
私は、この理念が非常に面白いと思います。
単に「魚を獲って売る」という話ではありません。
水産物を安定して人々へ届ける仕組みをつくる。
つまり、漁業そのものよりも、その先にある「供給の仕組み」を見ていたのではないでしょうか。
これは現在のニッスイの事業にも、しっかりとつながっています。
漁業から食品へ
創業当時のニッスイは、もちろん漁業が中心でした。
しかし、漁業だけにこだわり続けたわけではありません。
水産資源を獲る。
保存する。
加工する。
運ぶ。
そして消費者へ届ける。
こうした過程を一つずつ事業として取り込んでいきました。
創業期から、漁獲物を魚として販売するだけでなく、ちくわやフィッシュミールなどへの加工にも取り組み、資源を余すことなく活用してきた歴史があります。
やがて食品事業を拡大し、現在では、
- 水産事業
- 食品事業
- ファインケミカル事業
- 物流事業
などを展開しています。
つまり、115年間ずっと同じことをしてきた会社ではありません。
むしろ、
「水産物を人々に届ける」という役割を残しながら、事業の形を変えてきた会社
と言ったほうが正確でしょう。
長寿企業に必要なのは「変わらないこと」ではない
長寿企業を調べていると、私は一つの共通点を感じます。
それは、会社が長く続くためには、必ずしも「昔から同じことを続ける」必要はないということです。
社会が変われば、必要とされる商品も変わります。
技術も変わります。
競争相手も変わります。
ニッスイも、遠洋漁業を中心とした時代から、食品や海外事業を重視する現在へと、大きく姿を変えてきました。
それでも、
「自然の恵みを人々へ届ける」
という根本部分は残っています。
ニッスイが115年間生き残ってきた理由の一つは、この「変わる部分」と「変えない部分」を使い分けてきたことにあるのかもしれません。
現在のニッスイ
2026年3月期のニッスイは、売上高9,312億65百万円、営業利益404億30百万円、経常利益431億87百万円、親会社株主に帰属する当期純利益275億17百万円となりました。
売上高、営業利益、経常利益、当期純利益はいずれも過去最高を更新し、営業利益は初めて400億円を超えています。
直近3年間の財務
| 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 8,313億75百万円 | 8,861億26百万円 | 9,312億65百万円 |
| 営業利益 | 296億63百万円 | 317億79百万円 | 404億30百万円 |
| ROA | 約3.9% | 約4.0% | 約3.7% |
| 自己資本比率 | 41.1% | 43.6% | 40.0% |
| 1株配当 | 24円 | 28円 | 32円 |
2026年3月期は、戦略的な投資などによってROIC・ROEが低下した一方、利益そのものは過去最高を更新しています。自己資本比率は40.0%となっています。
利益だけを見れば非常に好調ですが、長期投資では投資負担や財務の変化も一緒に見ていく必要があります。
10年間で利益はどれだけ成長したか
長期投資を考えるうえでは、1年や2年の業績だけを見るよりも、長い期間で利益がどうなっているかを見ることが大切です。
ニッスイの親会社株主に帰属する当期純利益は、
2016年3月期:約123億円
2026年3月期:約275億円
となっています。
この10年間の年平均成長率(CAGR)を計算すると、約8.4%。
もちろん毎年8.4%ずつ増えてきたわけではありません。
水産資源価格、原材料価格、為替、海外事業などによって利益は変動します。
それでも10年間という期間で見れば、利益を大きく成長させてきたことは、長期投資家として評価したいところです。
配当も増えている
配当金も着実に増えています。
2024年3月期 24円
2025年3月期 28円
2026年3月期 32円
2027年3月期も32円が会社予想です。
ニッスイは、急激な高配当を目指す会社というよりも、事業の成長に合わせて少しずつ株主還元を増やしていく会社と見ることができます。
「買ったら長く持つ」という投資を考えるなら、このような配当の積み上げは非常に重要です。
ニッスイの5つの遺伝子
ニッスイには、創業以来受け継いできた「5つの遺伝子」があります。
- 使命感
- イノベーション
- 現場主義
- グローバル
- お客様を大切にする
とされています。
特に興味深いのは、「グローバル」と「イノベーション」です。
創業時から海外の技術を導入し、トロール漁業という当時の最先端技術に挑戦しました。
そしてその後も、冷凍技術、加工技術、養殖、食品、海外事業などへと事業を広げています。
115年前から、世界を見ながら新しい技術を取り入れてきた。
これもニッスイの長寿の理由の一つなのかもしれません。
ニッスイの5つのリスク
もちろん、永久保有を考えるなら、良い部分だけを見るわけにはいきません。
① 水産資源のリスク
水産業は自然環境に左右されます。
魚種によっては漁獲量が大きく変動する可能性があります。
② 原材料価格のリスク
食品事業では、水産物を含む原材料価格の上昇が利益を圧迫する可能性があります。
③ 為替リスク
海外での事業展開が大きいだけに、為替変動の影響も受けます。
④ 海洋環境・気候変動リスク
海水温の変化などによって、水産資源そのものが変化する可能性があります。
これは水産会社であるニッスイにとって、長期的に無視できない問題でしょう。
⑤ 成長投資・財務リスク
海外事業や工場などへの積極的な投資は、将来の成長につながる一方、投資負担や減価償却費、借入金などが財務に影響する可能性があります。
長期投資先としてのニッスイ
では、ニッスイは10年を超えて保有する会社としてどうでしょうか。
私はかなり面白い会社だと思います。
理由は、115年前の創業理念と現在の事業がつながっているからです。
創業時は魚を獲って届けることから始まりました。
現在は水産事業だけではなく、食品、ファインケミカル、物流などにも事業を広げています。
しかし、その根底には、
「自然の恵みを人々の生活へ届ける」
という役割があります。
食は、人間が生きていくうえで欠かすことができません。
そして水産物を含む食品の需要そのものが、突然なくなることも考えにくいでしょう。
長期投資の評価
★★★★☆
115年という長い歴史。
食という社会に必要不可欠な分野。
世界の水産資源へのアクセス力。
食品などへの事業展開。
そして長期的な利益と配当の成長。
長期投資の対象として魅力的な要素は多いと思います。
一方で、水産資源、原材料価格、為替、気候変動など、自然環境や世界経済の影響を受けやすい事業でもあります。
そのため、今回は満点の5つ星ではなく、4つ星としました。
10年越えの長期投資に向けて今日の株価は買いか?
2026年9月18日の終値は1,163円。
2027年3月期の会社予想配当は32円で、予想配当利回りは2.75%。
予想PERは12.16倍、PBRは1.15倍です。
決して「ものすごく割安」という水準ではありません。
しかし、10年以上の長期保有を前提に考えるなら、利益成長、配当の増加、そして食品という事業の性質を考えると、買いを検討できる水準だと思います。
もちろん、株価は短期的に大きく動くことがあります。
しかし、私がニッスイを見るうえで重要だと思うのは、株価そのものよりも、
「水産物の水道」という100年以上前の理念が、これからも利益を生み出し続けられるか。
ということです。
ここが崩れないのであれば、短期的な株価変動は、それほど重要ではないのかもしれません。
まとめ
一隻のトロール船から始まったニッスイ。
その出発点にあったのは、
「水産物の水道」
という、とてもユニークな考え方でした。
世界中の海から水産物を集め、できるだけ新鮮な状態で保存し、必要とする人々へ届ける。
そのために漁業だけではなく、冷凍、加工、食品、物流、海外事業などへと領域を広げてきました。
会社の形は変わりました。
しかし、社会に食を届けるという役割は変わっていません。
長寿企業を見ていると、100年以上同じことを続けてきた会社よりも、時代に合わせて姿を変えながら、存在する理由を守ってきた会社のほうが多いように感じます。
ニッスイは、その典型的な会社なのかもしれません。
一隻の漁船から始まった会社が、115年後には世界の海と食卓をつなぐ企業になった。
そう考えると、
「水産物の水道」
という言葉は、ニッスイという会社を理解するための、とても良いキーワードだと思います。
これからも海から食卓へ。
115年続いてきたこの会社が、次の100年をどのようにつくっていくのか。
長期投資家として、じっくり見ていきたい会社です。
※本記事は特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。本記事の内容によって生じたいかなる損失についても、筆者および当ブログは責任を負いません。
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